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【いらすとやでわかる】8月1日ビットコインが分裂したりしなかったりするシナリオ

Posted: 2017-07-20

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古い記事にたくさん人が来ていて混乱させては申し訳ないので続きを書くことにします。 これを読めば読んだ人はさらなる混乱に叩き落とされることうけあいです。 技術的な話はいろんな人がしているので、もっとなんかこう雰囲気が伝わる感じに書いていきたいと思います。

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【いらすとやでわかる】ビットコイン分裂後のシナリオ

前回の記事は既に古い話なので読まなくてもいいですが、用語の解説とか必要な人は前提知識とか載ってるので読んでも良いかも。

ビットコインアンリミテッド(BU)のその後の顛末

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ものわかれのイラスト

大手のマイナー(マイナーの意味がわからない人は前記事参照)が主導するビットコインアンリミテッド(BU)が segwit という新技術の導入を拒み、ビットコインをハードフォークすると騒いでいたのが前回の記事までの流れでした。 その後、取引所がBUの通貨BTUをビットコイン(BTC)とは別に扱うと声明を出したり、BUを主導していたマイナーの Antpool がビットコインのシステムの弱いところを突いて「ずる(Antboost)」していたことが判明したりしました。segwit が導入されるとそのズルはできなくなります。 さらに畳み掛けるように Antpool が開発販売している Antminer というビットコインをマイニングする装置にバックドア的なバグがあることがバレたりして、BUへの風当たりが大きくなると同時にBUによるハードフォークもトーンダウンしていきました。 というわけで、「BUがハードフォークしても誰も支持しねえだろ」という雰囲気になり、ひとまず分裂の危機は去った、 ……かと思われたのでした。

UASF/BIP148 の登場

BU爆誕の危機は去ったように見えました。 しかし、ちょっと話を遡って、そもそもBUが騒いでいた原因は何だったのかという話を説明します。 それはつまりビットコインが詰まっていたという話です。

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詰まっているイラスト

詰まっていたのはビットコインの取引。

ビットコインを「使っている」方なら知っていることですが、ここ数カ月ビットコインの送金手数料が『銀行の振込手数料並に』高価になり、 送金手数料をケチると全然取引が完了しない。という現象が起こっていました。

ビットコインの取引は始め、mempool というところに集められマイナーがそれをひとつのブロックにまとめて検証・承認することで取引が記録される仕組みです。マイナーは取引の手数料をもらえるので、とうぜん手数料を多く払った取引を先に承認しようとします。そのため、取引が混雑してくると、支払った手数料の低い取引(送金)は後回しにされ取引の成立にものすごい時間がかかります。

先月なんて酷い時は、数十分で送金するのに日本円で数百円の手数料を払わないといけなかったり、数円分の手数料だと承認まで1週間待たされたり、最悪取引が行方不明になったりという酷い混乱っぷりでした。

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大変混在していました
BUはこの問題に対して、「一回に承認できる量を自由に大きくできるように変えようぜ」と言ってハードフォークしようとしていました。 一方でコア(コアってなにってひとも前回の記事参照)は「segwit という新技術を投入して承認する取引のデータ量を小さくしたまま取引量を増やせるしそれを早く導入しろ」 という主張をお互い展開していました(おそるべきざっくり説明)

結局さっき説明したようにBUハードフォークはトーンダウンしましたが、この問題は先送りになったまま。7月始めまでひどい混雑と mempool の肥大化が続いていました。 ちなみにコレは重要な点ですがコアが segwit を導入出来なかったのは、segwit の有効化に「マイナーの 95%の同意が必要」というルールがあり、コアが segwit 対応のソフトを配ってもマイナーが対応してくれなかったからです。

BUとコアは対立したまま膠着状態、しかしビックカメラとかのおかげもありビットコインの取引量は増え続けていきました。

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対立

そこに突然現れたのが UASF/BIP148 です。

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UASFは帽子をかぶりがち

説明しましょう。BIP とはビットコインに提案された技術的な提案のうち、有意味であるものを登録する仕組みです。 BIP148 とは 148 番目の BIP であり、そこに提案されたのが UASF です。

UASF と BIP148 を簡単に説明すると、

  1. segwit を有効化させたい。
  2. そこで segwit を含む BIP148 に対応したソフトを賛同者に配ります。
  3. BIP148 に賛同する人や取引所、マイナーはそのソフトを使用して取引を行ったり取引を検証したりします。
  4. 8 月 1 日になると BIP148 のソフトは segwit 対応じゃないマイナーが作った取引記録のブロックを不正なものとして強制的に『無視』します。
  5. 無視された取引はネットワークに流されず記録が消えてしまうため UASF に対応してないマイナーは報酬をもらえません。それは嫌なのでみんな UASF に対応します。
  6. すると自動的にみんな segwit に対応する! というか BIP148 に対応してない奴らは『無視』してるので当たり前です。
  7. 95%のしきい値を超えて segwit が有効化します。バンザイ!

つまり、8/1 日までに UASF が多数派になっていた場合、マイナーは取引記録をまとめたブロックを作って報酬をもらおうとしても、UASF に無効にされてしまう可能性があるため、確率的に UASF に対応したほうが得になります。 なので、UASF が多数派を取れれば、雪崩式にみんな UASF に対応し segwit が有効になるわけです。

詳しくはこちらを読んでください。 GitHub - bitcoin/bips: Bitcoin Improvement Proposals BIP-148 の内容と影響について | ビットコイン研究所

しかしながら、ビットコインの UASF がごく少数だった場合はマイナーは損をする確率が少ないので UASF に対応する必要がありません。そうすると UASF がいくら発動しても取引をまとめるマイナーがほとんど居ないため取引をさばけず通貨として使用できません。通貨の価値がないのでマイナーには参加する利点がなく、この悪循環で UASF/BIP148 は先細りになり消えます。 あくまでユーザーや取引所などが UASF 支持を表明し、UASF 対応のソフトを動かして、「UASF に対応していないビットコインは使いません」、「UASF に対応していないブロックはネットワークに流しませんよ」と意思を示してしてマイナーに圧力をかける必要があるわけです。 UASF 対応のソフトとは、ビットコインの取引を検証して伝播するノードのことなので以降「ノード」と呼びます。

さて、これまでのマイナー主導の強制的な仕様変更や、コアの提案する仕様変更とちがって、ビットコインを使うユーザーが主導的に意思表明をしてビットコインに変更を行う、ということで BIP148 の賛同者と活動家は、

U(ユーザーによって) A(アクティベイト=有効化される) S(ソフト=互換性のある) F(フォーク=分岐…仕様変更) と名乗りました。

ユーザーの力によって segwit を選択しビットコインの混雑を解消しようとしたわけです。

UASF の危険性と怒涛の展開、segwit2x の登場

ビットコインの政治をみると三権分立を思い起こさせられます。力をもつマイナーが内閣、技術に長けたコアが裁判所なら、UASF を主導するユーザーはそのまま、民衆とそれを代表する国会でしょう。

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国会のイラスト

愚衆政治という言葉がありますが、UASF にも強引すぎるやり方からいろいろと危険性が指摘されました。

例えば UASF が 8/1 日に発動した際に、ちょうど UASF の対応したノードがネットワークの半分位だった場合、取引が記録されたブロックは『承認されたりされなかったり』する可能性があります。*1 つまり、最悪な例だと、あるときビットコインを送金して、送金に成功したとしても次の日になったら取引が無効になっている可能性があります。そんな決済システム恐ろしくて誰も買い物とかに使えませんよね。 あと、UASF が実行された時に UASF のビットコインと元のビットコインが完全に2つに別れる(split する)可能性があります。上の例よりはまだマシですが、前回の記事で説明したような混乱が起こるでしょう。

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混乱
そこに颯爽と現れたのが segwit2x/BIP91、ニューヨークアグリーメント(NYA)です。

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NYA

さてそろそろうんざりしてきましたが一つづつ説明しましょう。 ニューヨークアグリ―メント(NYA)というのはニューヨークでマイナーやビットコイン関連企業・ユーザーなどがニューヨークの Consensus 2017 とか言う会議で 5 月 24 日に合意した内容のことです。なんのこっちゃという感じですが、その内容が segwit2x なのです。 segwit2x というのは segwit を有効にして、そのあと少ししたらブロックサイズを2倍にしますよという合意のことです。この約束に沿ったソフトは現在急ピッチで開発が進められておりまだ完全なものは完成していません。ソフトの名前も segwit2x です。 そして最後にこの segwit2x を有効にする仕組みが BIP91 です。BIP91 は BIP148 と似ような仕組みで、segwit 有効化のための 95%を実際には 80%の同意で達成します。仕組みは単純。80%の同意に達した時点で、20%を無視して切り捨てます。そうすると自動的に 95%以上になる、という仕組みです。 こう書くと明らかですが、マイナー版の BIP148 だと考えればいいでしょう。 BIP148 との違いは、マイナーの 80%の同意を待つという点です。マイナーの大勢が決まった状態で初めて segwit2x が発動するのでビットコインが分裂する危険性は低くなります。そして NYA でこれに賛同したグループはそもそもマイナーの 83%ぐらいの力を持っているのです。 参考 Segwit2x: What you need to know – Jimmy Song – Medium Bitcoin Scaling Agreement at Consensus 2017 – Digital Currency Group – Medium

さて例によって問題点もあります。それは segwit2x の開発期間が短く、十分なテストもされていないという点です。segwit2x が発動されたら致命的なバグが発生して、ビットコインが死ぬ危険性があります。また、マイナーが同意に含まれているため、BU を主導していた Antpool の使っていたバグ(Antboost)を塞ぐことができるのか不透明だという問題もあります。

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急いで開発しました

segwit2x 派のねらいとしては 8 月 1 日までに segwit2x を有効化すると segwit が有効化し BIP148 が無効化することです。そうして危機を脱したらその後ブロックサイズを2倍にする segwit2x を 10〜11 月までにゆっくり完成させて 11 月にそれを発動します。 参考8/1 ビットコイン分裂危機のシナリオ予想 ~ 8 月にビットコインは分裂しません~ - ビットコインダンジョン

自分の見方としては UASF の 8 月 1 日の危機は BIP91 で回避されて、ブロックサイズを 2MB に増やすとき(10 月〜11 月)にまた揉める可能性が高いのではないかと思います。 しかし BIP91 が 8 月 1 日までに有効化されない場合 UASF が発動します。

颯爽と Bitcoin cash (UAHF)登場

そんなさなか 7 月 17 日に VIABTC(ココらへんよくわからんので訂正)中国の大手マイナーが UASF は発動した場合、Bitcoincash をつくってビットコインから分裂すると宣言しました。

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汗を流すマイナー

まじでいい加減にして欲しくなってきましたが、説明すると、 これは前の記事で説明した BU と同じと考えていいです。 結局のところマイナーの一部はただの segwit が発動するのは我慢できないようで UASF が発動するくらいなら、ある程度自分たちの自由にできる通貨に分裂したいということなのだと思います。ちなみに詳しく見る気力はありませんが'UAHF'≒'Bitcoincash'≒'Bitcoin ABC'≒'BU'だと考えて良いと思います。 参考 ビットコインの非中央集権性が失われる日 – 西欧の車窓から – Medium UAHF のいいところとしては UASF と互換性が無いので、分裂はするもののブロックが後から上書きされて『取引記録が承認されたりされなかったりする』という最悪の状況にはならないということです。 ただし取引所によっては Bitcoincash は扱わないと宣言しているところもあるので、Bitcoincash を使いたい場合は取引所から出金して自分のウォレットに保管する必要があるかもしれません。

今後の予想

ここまで読んできて大体雰囲気がわかったのであれば、7/20 時点の最新の日本語情報はここを聞くのが一番です。 8/1 ビットコイン問題の最新アップデート - ビットコインダンジョン

丸投げもアレなので一応こちらでもまとめておくと、

今後、上手く行けば

BIP91(★ 追記 7/21 日朝にロックイン完了。7/23 日頃に発動か) ↓ segwit 発動 ↓ 11 月にハードフォークで 2MB に変更

と言う流れになり、NYA が粛々と進められて、ビットコインは分裂しません。割と可能性としては高そうです。

しかし最悪の場合、

BIP91 失敗 ↓ 8 月 1 日に BIP148 発動 ↓ ビットコインが元のビットコインと UASF と Bitcoincash の3つに分裂

もっと最悪の場合「バグでビットコインが崩壊する。」というのも考えられます。まあそこまでのバグなら最悪巻き戻せるし大丈夫だと思いますが、ある意味ビットコインの連続性、正統性は失われるでしょう。

個人的な予想として前者がで話が進み、ビットコインは分裂せず、11月にハードフォークするかどうかでまた揉めると思います。 そして、、

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うんざり

結果みんなうんざりして、Litecoin とか Monacoin とか ETH、NEM、IOTA なんかの他の仮想通貨(アルトコイン)に流れていくんじゃないでしょうか。 まあビットコインに仮想通貨の富が集中することもある意味「中央集権的」で反ビットコイン的なのでそれも良いのではないかと思います。

それでは!

追記: 最新情報が入り BIP91 が 7/21 の朝9時にロックインしたそうです。 ビットコインの BIP91 シグナル、ロックインへ 分岐か収束か | ビットコインの最新情報 BTCN |ビットコインニュース しかし分岐の可能性も残っています。 ここまで読んできたらだいたい理解できると思いますので、今後のニュースも追っていきましょう!

*1:split が起こったり元にもどったりを繰り返している状態